根管治療後に出てくる膿は失敗?治療後に膿がでる原因について
歯科治療の中でも根管治療は、歯を保存するための非常に重要な処置です。しかし、治療後に膿が出てしまうと、不安になる患者さんも少なくありません。本記事では、根管治療後に膿が出る原因や、その対処法について、歯科医師の視点から分かりやすく解説します。
1. 根管治療とは?
根管治療は、虫歯や外傷によって歯の内部に細菌感染が広がった場合に行う治療です。歯の神経や血管がある”根管”と呼ばれる部分を清掃し、感染源を取り除いて密封することで、痛みや腫れを改善し、歯を残すことを目的としています。
根管治療の目的
根管治療は、単に痛みを取るだけではなく、歯の保存と口腔全体の健康を守るために行われます。歯を抜かずに残すことは、咀嚼効率の維持や顎骨の退縮予防にもつながります。また、歯を失うことによる入れ歯やインプラント治療の負担を減らすことも重要なメリットです。
■ 治療の流れ
◦ 虫歯の除去
◦ 神経や感染組織の除去
◦ 根管の封鎖
◦ 詰め物や被せもので密封
このようなプロセスを経て歯を保存しますが、治療後に膿が出る場合、いくつかの原因が考えられます。
2. 根管治療後に膿が出る原因
1. 細菌が残存している
治療時に細菌や感染組織が完全に除去されなかった場合、治療後も炎症が残り、膿が出る可能性があります。特に、根管が複雑な形状をしている場合や細い根管の場合、感染源を完全に取り除くのが難しいことがあります。研究によれば、根尖部に残存する細菌が治療失敗の主要因であり、特にフェカーリス菌のような抗菌剤や消毒剤に耐性のある菌が問題となることがあります
また、根尖付近に形成される細菌のバイオフィルムは、一般的な根管内の洗浄剤では除去が難しいとされています。バイオフィルムとは細菌が集まって作るヌルヌルした膜で、薬や免疫の攻撃から細菌を守るバリアのようなものです。ひとたび細菌バイオフィルムが形成されると、外部からの刺激や抗菌剤に対して耐性を示すため、治療が困難になる要因となります。
2. 新たに細菌が感染した
治療後、仮詰めや最終的な詰め物が十分に密閉されていないと、細菌が再び根管内に侵入し、感染を引き起こす可能性があります。また、充填の不完全な密封性や仮詰め材の劣化により、唾液や細菌が再感染を引き起こすことがあります
特に、治療後に適切な修復処置が行われない場合、コロナルリーケージ(coronal leakage)と呼ばれる現象(根管治療後に詰め物の隙間から唾液や細菌が入り込み、再感染を引き起こす現象)が発生し、根管内に再び感染が広がるリスクが高まります。このため、仮詰め材は早期に最終修復材に置き換えることが推奨されます。
3.外部感染
根尖部での外部感染(extraradicular infection)。これは、特定の細菌がバイオフィルムを形成し、免疫系を回避することによるものです。特に、外部感染の場合、細菌が根尖付近の周囲組織に広がることがあります。この場合、通常の根管治療では対応が難しく、歯根端切除術など外科的な治療が必要となることがあります。
4. 歯周病との関係
歯ぐきや歯周組織に炎症がある場合、根管治療自体が成功していても、歯周病が原因で膿が出ることがあります。特に、歯周ポケットが深い場合は注意が必要です。
歯周病は細菌感染が原因で起こる炎症性疾患であり、根管治療後の予後にも影響を及ぼします。歯周病の進行により、歯根膜や顎骨に炎症が拡大し、根管治療の効果を損なう場合があります。
5. 他の要因
その他、以下のような要因が考えられます:
外因的要因(異物反応):根管充填材や異物(綿、セルロース)などが病変を持続させる。
コレステロール結晶による慢性的な炎症維持。
症状が出たときの対処法
膿が出た場合、自己判断で放置するのは危険です。以下のような対処法を取ることをおすすめします:
1.歯科医師への早急な相談
◦ 症状が悪化する前に、必ず治療を担当した歯科医師に相談してください。
◦ 必要に応じて再度治療を行う場合があります。
2.抗生物質の服用
◦ 顔や首の腫れ、発熱、リンパの腫れがあるときは、細菌が広範囲に広がっている可能性があり、抗生物質が必要になります。
3.痛み止めの使用
◦ 激痛がある場合、歯科医師の指示に従って鎮痛剤を服用してください。
膿が出る場合の治療選択肢
1. 再根管治療
既に行った根管治療が不完全である場合、再度治療を行うことで感染を取り除くことが可能です。特に、根管内に残存する細菌が原因の場合、再治療が有効とされています。
2. 外科的治療(歯根端切除術)
感染が根の先端に集中している場合、外科的にその部分を取り除く方法が有効です。この治療では、根尖部を切除し、感染源を直接除去することで、再発を防ぎます。
3. 抜歯
感染が広範囲に及び、歯の保存が困難な場合、抜歯が選択されることがあります。その後、インプラントやブリッジ、入れ歯などの補綴治療を検討します。
予防のためにできること
膿や再感染を防ぐためには、治療後に隙間のないしっかり合った被せ物(補綴物)を装着することが大切です。 詰め物や被せ物に隙間があると細菌が入り込み、再び感染する原因になるため、早めに適切な修復を行いましょう。
膿が出た経過不良例でも再根管治療で解決できる可能性がある
根管治療後に膿が出ることは、必ずしも治療の失敗を意味するわけではありません。治療後に症状が出た場合でも、適切な対処を行うことで問題を解決できることが多いです。特に、再根管治療を行うことで感染を取り除き、症状が改善する可能性があります。不安な場合は、遠慮せずに歯科医師に相談してください。
早期の対応と適切な治療で、再び健康な口腔環境を取り戻しましょう!
参考文献
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